こんにちは。サイゴンの夜長にもち米焼酎(Nếp Mới)を飲みながら本を読むのが趣味の10max(@10max)です。
今宵はベトナムに関わるべトナみ溢れる本たちをご紹介します。
焼酎が効き過ぎて本の内容を忘れがちなので、少し読み返して内容を思い出し次第随時更新していくというアジャイルスタイルの書評となります。
また、ウィッシュリストに入っているベトナム関係の本も、備忘を兼ねてリストアップしています。
なお、基本ネタバレは避けたつもりです。
★★★★★:必読
★★★★☆:ベトナム好きな皆さんは是非
★★★☆☆:とても面白いので時間あれば是非
SONY ILCE-7C (99mm, f/4.5, 1/30 sec, ISO12800)
ベトナムが関係するノンフィクション作品
サイゴンから来た妻と娘
著:近藤紘一
言わずと知れたジャーナリスト近藤紘一氏の不朽の名作。在住者はもちろん、ベトナムに関心ある全ての方に手に取って頂きたい作品。
この後紹介する沢木耕太郎が旅という目線でベトナムを描く巨匠だとすれば、近藤紘一はベトナムの心情や暮らしを深く濃やかに描く達人。筆者の中ではいずれも尊敬してやまない並び立つ双璧。
ベトナム戦争末期に結婚したベトナム人女性と、その娘さんとの暮らしを綴る。時代は40年以上遡るため、全てが今のベトナムに当てはまる訳では無いが、それでも彼らの根底や源流にある本質を鋭く、そして深い愛情とユーモアで描いている。
ベトナム人は規則や形式よりもとかく物事の本質を重んじる精神の持ち主に見えた。それは一面、こうした馬鹿げた規則や煩雑な手続きがはびこりすぎていたからかのかもしれない。
(本作品より引用)
結婚当夜の食事には、前の夫もやってきた。コニャック・ソーダをふだんよりよけいに飲んで、
「ベトナムの女は世界一優しいんだ。そして世界一気性が激しいんだ。お前さんも忘れるなよな」
と、手の甲のキズを私に差し出した。
(本作品より引用)
例えばこうした一節一節が思い当たる節があり過ぎて、気付けばニヤニヤしてしまう。
著者のベトナムへの愛情に心温かくなる、ベトナム関係者必読の書。
人間の集団について 改版: ベトナムから考える
著:司馬遼太郎
多くの国を訪れ歴史を紐解いてきた司馬遼太郎先生をして、「私の半生のなかで、このベトナムにおける短い期間ほど楽しい時間はなかった…(中略)…いまでも、夢でしばしばサイゴンの雑踏を見る」と言わせたベトナム。そのベトナムの人々の行動や心理を、司馬先生ならではの歴史分析を背景とした鋭い洞察はそのままに、愛情と優しさ豊かに描く。
歴史、宗教、産業、様々な観点から、「日本人とベトナム人の似たところをあげればきりがない」と分析し、共感を示すその内容は、ベトナム戦争終結間際の時代の観察でありながら、50年後の現在ベトナムで暮らす私たちにとっても示唆するところがあまりに多く、この国に関わるものなら時間を忘れて没頭してしまうだろう。
個人的には、司馬先生をしてこうまで言わせたベトナムの今を見ているという事に、さざなみのような静かな感動を覚える。
サイゴンのいちばん長い日
著:近藤紘一
上でも紹介した近藤紘一氏によるサイゴン陥落を描いたノンフィクション。「ベトナム戦記」の開高健氏を以て「顔もあれば眼もある本」と評させた名ルポルタージュ。
1975年4月、北ベトナム軍のサイゴン無血入場と共に南ベトナムという一つの国が消滅する歴史的瞬間を描いているのだが、特筆すべきは、新聞社特派員の著者自身が3年あまりを過ごしたサイゴンの人々や町や路地の表情が濃厚に描かれている点。
大所高所の視点というより、サイゴンに住む民衆にとって、ベトナム解放とは何だったのか、が垣間見える名著。
クォン・デ もう一人のラストエンペラー
著:森達也
日露戦争の勝利がもたらした、アジアの熱狂と日本への憧憬。植民地支配からの解放を夢見て、当時の日本には中国やインドなど、アジアの国々から多くの志士が集っていた。
その中にフランスの圧政に苦しむベトナム人もいた事は、あまり知られていない。ベトナム最後の王朝、阮朝直系の末裔であるクォン・デ(Cường Để / 彊㭽)もその一人だった。
クォン・デや彼の周りの革命の士達の、日本への憧れと失意、そして彼らを支えた日本人、軍国主義へと堕ちる中でアジアとの心理的距離が離れていく当時の政情などを、ドキュメンタリーと小説のハイブリッド的に描く。
日本に憧れ続け、志半ばに日本に骨を埋める事になったベトナム王家の男が居たという事を、ベトナムに関わる日本人は知っておくべきかも知れない。
ベトナム戦記
著:開高健
開高健氏による、ベトナム戦争の現場を日本人が描いた最初のルポルタージュ。
開高氏はジャーナリストではなく、作家。それだけに戦場での描写が生々しいだけでなく、人々の心情を濃やかに描いている点が魅力だ。
「なんだってあなたがたは貧しいのにそんなにたくさん子供を作るんです」(中略)
「シエスタ(昼寝)の習慣があるからどうしてもできてしまうんです」
(本作品より引用)
戦場だが、敵も味方もない極限の中で紡ぐ貴重なベトナム戦争記。
一号線を北上せよ<ヴェトナム街道編>
著:沢木耕太郎
巨匠・沢木耕太郎氏による、ベトナム版「深夜特急」。
何とも陳腐な表現に過ぎて口はばったいのだが、結局のところそう表現するのが一番分かりやすいと思う。
路線バスへの拘りや、行く先々での商店やホテルで遭遇する小さなトラブルと、少しの自己嫌悪と共にそれらを振り返るスタイルは、少なからず深夜特急を彷彿させる。
一方で、やはり「深夜特急」から少なからぬ年齢を重ねているからか、当時のような若さや瑞々しさよりも、多少の落ち着きを帯びた「大人の旅」感が醸し出されている点も趣深い。
いずれにしても、旅目線でベトナムを眺め直す事が出来る名著。
ベトナムが関係するフィクション小説
青春の源流
著:森村 誠一
「タテオカ小隊」- 太平洋戦争終結後ベトナムに残りベトナムの自由と独立のためにベトミンやベトコンを指導し、仏兵や米兵達に恐れられた日本軍残兵が主人公として登場する、事実を元にした長編小説。戦争で青春を奪われた者たちの、青春の幻影を追う物語。
米国の介入によるベトナム戦争の書籍は数多いが、本書ではそれだけでなく、太平洋戦争後の日本、フランスからのベトナム独立を勝ち取る戦争についても、史実に基づいて非常にリアルかつ詳細に描かれており、ベトナム関係者必読の小説。
山に魅入られた親友、ヒロインの女性らを中心に数奇な運命が展開する物語としても大変面白く、文庫本4冊に渡る大変読み応えのある作品。
午前三時のルースター
著:垣根涼介
垣根涼介著のミステリー作品。 ベトナムで消息を絶った父親の謎を解き明かすべく現地へ飛んだ少年と旅行会社添乗員達の冒険と謎解きを、親子の複雑な心情とスリリングなアクションも絡めつつ描く。
謎解きストーリーそのものが面白いだけでなく、かつて著者自身が旅行会社勤務時代に訪問したホーチミン界隈の描写がリアルで、ベトナム・ホーチミン在住者としては、登場する場面場面の風景を脳裏に浮かべながら読めるのが尊い。
ベトナムと言う国が発する「熱」が一つのテーマになっており、ベトナムで暮らし、仕事をしている身としては「分かる分かる」感がすごい。
ミステリーそのものとして見ると少々ライトな部分もあるので★4つとしたが、ベトナム好きながらぜひ読んで頂きたい作品。
サイゴン・タンゴ・カフェ
著:中山可穂
(鋭意読破中:Amazonの紹介文を引用)
インドシナ半島の片隅の吹きだまりのような廃墟のような一画にそのカフェはあった。主人はタンゴに取り憑かれた国籍も年齢も不詳の老嬢。しかし彼女の正体は、もう20年も前に失踪して行方知れずとなった伝説の作家・津田穂波だった。南国のスコールの下、彼女の重い口から、長い長い恋の話が語られる……。東京、ブエノスアイレス、サイゴン。ラテンの光と哀愁に満ちた、神秘と狂熱の恋愛小説集。
ベトナムの事が学べる本
<決定版>ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本
星5つでお薦めなのは、特にベトナム赴任・在住予定の方。
ベトナムと言う国の政治や経済、文化や歴史の基本的な知識を、非常に効率的かつ分かりやすく、かつ漫画でライトな感覚で理解出来るので、筆者もベトナム赴任時には大変お世話になった。
「ベトナムで暮らす」「ベトナム関連の仕事をする」となったら、まず手に取って頂きたい一冊。
日本人の知らないベトナムの真実
開発経済学やアジアの農業開発分野を専門とする学者であり、かつベトナム最大の企業グループの一つ、ビングループの主席経済顧問の肩書を持つ川島博之氏の著書。
現在のベトナムを形成してきた歴史や、農業・経済開発、政治やマクロ動態などから今と今後のベトナムを読み解くなど、ベトナム社会を深く考察していて非常に興味深い。
考察が深い一方で、時折著者の先入観ではないか、と思われる部分や、ベトナムを長く知る読者の中には違う解釈を持ち得る部分もあったりして、だがそれが逆に話のネタとして面白い。
ということで、ベトナムのお酒を飲みながら書籍を通して思いを馳せるベトナム、悪くないですよ〜。
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