ベトナム生活編

「世界のシエスタ文化はベトナム起源」説を提唱してみる(昼寝をしながら)

ベトナム人というのは実によく昼寝をする人達であるなと思います。

筆者のオフィスでは、毎日昼休みの後半(13時半過ぎ)になると消灯され、それまでのお祭り騒ぎのような喧騒が一転、水を打ったように静かになります。

昼ご飯を食べ終わると皆、オフォス内で昼寝をするのです。

それも、デスクに突っ伏して寝ると言ったような生半可なものではなく、床に寝袋を広げて寝るという本格的な昼寝です。会議室の会議卓の上にまでミイラの如く寝袋が並ぶような有様であるため、13時開始の会議を13時に開始する事は極めて困難です。

周囲に話を聞くと、どうやらこの国では割と一般的な昼休みの光景であるようです。

昼寝, ベトナムApple iPhone 12 Pro (6mm, f/2, 1/35 sec, ISO800)

これは筆者にとって極めて喜ばしい状況でした。

何しろ、筆者自身日本に居た頃からの大の昼寝ファンであり、昼休みには日々オフィスの自席で昼寝をしていたものですが、その行為がついにマイナー側からメジャー側として認知される日が来たのです。それどころか、床に寝袋で寝ている諸先輩方を拝見するに、「10maxはまだまだ昼寝へのコミットメントが甘い」と鼓舞されんばかりです。

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「シエスタ」はアジアから輸入されたもの?

さて、そのような昼寝文化にどっぷり浸かりながらホーチミンで暮らしていたところ、敬愛する司馬遼太郎先生の作品の中で実に興味深い一節に遭遇しました。

昼寝の風習の領域は東南アジアから中国、日本(夏季)にいたるまで、まことに広大である。スペイン人が東南アジアにきてこの風習を知り、みずからもそれになじみ、シエスタとよび、やがて世界語になった。

出典:司馬 遼太郎の街道をゆく〈20〉中国・蜀と雲南のみち

つまり、これまで「『シエスタ』と言えばスペインを震源地とする風習であり、昼寝という行為は地中海方面の香り漂う文化である」と思い込んでいたところに、実はそれがアジアからの輸入品であったという、目の覚めるような説を突き付けられたのです。

司馬 遼太郎の街道をゆく〈20〉中国・蜀と雲南のみち

出典:司馬 遼太郎の街道をゆく〈20〉中国・蜀と雲南のみち

これを読んですっかり昼寝から目が覚めた筆者は、アジアの昼寝の歴史について調べてみる事にしました。昼寝から目覚めてもなお昼寝の事を考えるほどの熱心な昼寝研究科たる自分に、つくづく感心します。

バイクの上で昼寝するおじさん@ホーチミン1区

Apple iPhone 12 Pro (6mm, f/2, 1/100 sec, ISO50)
バイクの上で昼寝するおじさん@ホーチミン1区。見事なバランス感覚だが、非常によく見かける光景である。

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昼寝は二千年以上前に南方から中国へやって来た

現在でも台湾や中国では、学校などで昼寝が推奨されており、その習慣は「子午覚」という教えから来ています。その「子午覚」という概念が記された最古の文献は、紀元前200年から220年頃の間に編幕されたと推定される、中国最古の医学書「黄帝内経」だと言われています。

では「黄帝内経」に記された「子午覚」という昼寝の習慣はどこからやって来たのでしょう。

司馬遼太郎先生は同著の中でこう述べています。

昼寝の習慣は孔子の時代、すくなくとも華北にはなかったかと思える。

あるいは、長江流域(楚・呉・越)や、蜀などの稲作地帯の風習(福建など南方にはむろん存在したろうが)だったかもしれない。長江流域の異俗(中原から見ての)が中国の共有の風俗として入って来るのは、秦の末期、楚の代表者だった項羽がほろび、楚兵も、その居住領域も漢帝国のなかに入ってからかと私は思っている。

出典:司馬 遼太郎の街道をゆく〈20〉中国・蜀と雲南のみち

つまり、元々中国南方の異文化が、漢帝国の版図に組入れられる事によって中原にも浸透してきたのでは、と推測されています。

この点については恐らく間違いないでしょう。スペインの「シエスタ」の説明でもよく言われる通り、昼寝という習慣は元来暑い地域のもの。気温が高い真昼間に真面目に仕事したって仕方ないから寝てやり過ごそう、というコンセプトから昼寝が生まれたとされるのが一点。

加えて、アジア南方へ行くほど豊穣であり、「寝ながら獲物を待つ/作物が育つのを待つ」という考え方が一般的であったことも一考に値するでしょう。

ハンモックで昼寝するおじさん@ホーチミン7区

Apple iPhone 15 Pro (6.86mm, f/1.8, 1/500 sec, ISO80)
ハンモックで昼寝するおじさん@ホーチミン7区。ハンモックも非常に頻出の昼寝方法である。

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昼寝文化の起源はベトナムかも?

そのように仮定すると、古き中国に影響を及ぼした地域の中で、南方であればあるほど昼寝の習慣の震源地であると考えるのが自然な訳です。

じゃあそれってどこだろう?と考えてみると、「ベトナム(越南)」という地域に俄然注目が集まるのです。

御存知の通り、中華統一前の中国の長江流域以南には、呉、越という国がありました。そしてそれ以南には「南越」という国があった時代があり、更に南に、現在のベトナムに繋がる「越南国」があり、一時期は中華の版図に含められていました。

そしてベトナム、特に南部メコンエリアはとりわけ、寝ていても自然と稲が育ち、魚が穫れるほどの豊かな地と言われています。

これまでの話をまとめると、かつての中華の版図において最も気候が暑く豊穣で、昼寝に相応しい越南から南越にかけての習慣が中国最古の医学書「黄帝内経」にて推奨されるまでに浸透し、そこへやって来たスペイン人が昼寝文化を欧州に持ち帰った・・・という妄想が成り立つような気がしてなりません。

そして何より、学術的にいくら論じてみたとて、ベトナムの人々のあまりにプロフェッショナルな昼寝っぷりを見せつけられた日には、もう理屈抜きで「ここが世界の昼寝文化の震源地に違いない!」と思わざるを得ないじゃあないですか。

今となっては恐らく真相の突き止めようも無いですし誰も突き止めようとは思わないかも知れませんが、筆者はベトナム人たちの堂々たる昼寝っぷりに敬意を表しつつ、今日も昼寝をしたいと思います。おやすみなさい。

昼寝, ホーチミンの路上

Apple iPhone 12 Pro (4.2mm, f/1.6, 1/120 sec, ISO80)
路上にダイレクトに触れつつ昼寝するお兄さん@ホーチミン1区。もはや言葉もない。

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