ベトナム生活編

ベトナムのキャッシュレス決済事情と決済手段ごとの普及状況(2024年版)

こんにちは。ベトナムのIT・フィンテック界隈の片隅ですみっコぐらしをしている10max(@10max)です。

そんな仕事柄、

「ベトナムでキャッシュレス決済ってどのくらい普及してるの?」

と言うご質問を、1秒間に50回程度の頻度で頂くので(西日本は1秒間に60回らしい(何の話や))、もうここにまとめておいて、訊かれた瞬間にこの記事を音声読み上げで再生出来るようにしておこうと思います。

ベトナムのキャッシュレス決済事情は、日本と似ているようで全然違う、中々興味深いものになっています。

なお、本記事の内容は2024年3月時点の公知の情報(と筆者の適当な憶測)に基づきます。

※現金のお話は下記記事をご参照下さい。

ドンを恐るる事なかれ - ベトナム通貨の円換算、数え方、使い方、覚えておくと便利な事まとめ
こんにちは。ベトナム赴任生活も4ヶ月目に入った10max(@10max)です。10月ですね。日本はもう秋ですか・・・ホーチミンは今日も真夏の雷雨です(笑)さて、今日は最近ようやく慣れてきたベトナムのお金の使い方のお話です。ベトナムドンについ...

記事中用語補足:

  • 「モダントレード(MT)」=大手スーパーやコンビニなど近代化された店舗
  • 「トラディショナルトレード(TT)」=ローカルの個人商店、屋台、市場など
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ベトナムのキャッシュレス決済普及状況には激しく濃淡あり

単刀直入ですが、いきなり本題に切り込みます。

「ベトナムのキャッシュレス決済はどのくらい普及しているのか?」

回答はズバリ・・・!!

 

「ベトナムのキャッシュレス普及状況は地域と業態により異なります( ・`ω・´)キリッ」

 

・・・

「そんなの当たり前体操じゃねえか!」

「国会答弁か!」

といった突っ込みがホーチミンのスコールのごとく降って来そうなので、もう少し補足します。

都市部では財布が無くても困らない

以下、一旦「キャッシュレス決済」の種類や細かい定義を無視して、ざっくり申し上げます。

ベトナムのキャッシュレス決済の普及状況を一言で表すと、

(外国人在住者の生活圏内では)全般的に日本よりかなりキャッシュレスの普及は進んでいる

と言えます。

それをもう少し因数分解すると、下記の様になります。

  • 都市・田舎に関わらず、モダントレードの店舗はほぼ漏れなくキャッシュレス化済み海外からの旅行者が利用できるのはここだけ
  • 特に都市部のキャッシュレス化は著しく、トラディショナルトレード(ローカルの屋台や個人商店等)でも結構キャッシュレス化済み
  • 一方田舎のトラディショナルトレードは、まだ現金のみが多いかも知れない

ところで、ベトナム全体での取扱高ベースでのキャッシュレス普及率はまだ半数にも達していません(「半数」の定義は難しいですが大体そんな感じ)。

にも関わらず、、筆者の様な外国人在住者の生活圏内では、財布を持っていなくても困る事は殆ど無いほどにキャッシュレス決済が普及しているように感じます。

実はこれは統計の妙で、ベトナムでは農村部のトラディショナルトレードの市場規模がまだまだ大きく(小売産業におけるトラディショナルトレードの割合は約7割にも達する)、そのセクターの現金比率が高いため、ベトナム全体で均した統計で見てしまうと、それ程キャッシュレスが普及していないように見えるのです。

一方で都市部で生活している筆者たちの生活圏に限って見た時には、相当普及しているように感じられるという訳です。

率直な感想としては、コロナ前の2018~2019年頃にはコンビニでさえまともにクレジットカードが使えない店が多かったので、まあまあ急激に普及したな、という印象です。

なおこの後触れますが、海外からベトナムへの旅行者に絞ってお話をすると、クレジットカードが使える店が増えたのは間違いないですが、現金無しで済むのは都市部のモダントレードのみ、という状況は変わりません。

Modern-Traditional-Trade-Vietnam

ベトナムの小売産業におけるモダントレードとトラディショナルトレードの比率 出展:Statista

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ベトナムのキャッシュレス決済普及の背景

そんな風に、ざっくりと言えば急速に普及している感じのベトナムのキャッシュレス決済ですが、どんな流れと背景で普及して来たのかについて触れておきます。上で触れた通り、単純にクレジットカード決済が普及したのとは少し違います。

コロナとキャンペーンで急増したe-Walletユーザー

ベトナムでキャッシュレス決済が普及した背景ですが、一つには日本と同様、コロナの大きな後押しがありました。

そしてもう一つの要因も日本とよく似ているのですが、多数林立するe-Wallet間でのキャンペーン合戦です。

ベトナムでも、日本のPayPayやLINE Pay、d払いなどと同様、MomoやZaloPay、Mocaなど多数の国産e-Walletが林立しており、多くのベトナム人はスマホに主なWalletアプリをバンバンインストールし、その時々に応じてお得なプロモーション施策が行われているWalletを使います。実際にベトナム人に対して行われた調査では、これらのe-Walletを使うインセンティブとして大体最上位に来るのは、プロモーションです。

銀行口座保有率は7割超えまで急増

e-Wallet普及の横で、ベトナムにおける銀行口座保有率も爆発的に増えます。2018年頃の口座保有率は3割程度と言われていました(ちょっとうろ覚えですが(←調べろよ))。それが、2022年末にはベトナムの成人の77.41%が銀行口座を保有するまでにまで増えました。

つまり、たった数年の間に「3:7」が「7:3」に逆転してしまった格好です。(なので、今でも「口座保有率3割くらいだよね?」と言う人がいるのですが、まさか数年の間に真逆の比率になっているとは思わず勘違いしているのでしょう)

https://sbv.gov.vn/webcenter/portal/en/home/sbv/news/Latestnews/Latestnews_chitiet?leftWidth=20%25&showFooter=false&showHeader=false&dDocName=SBV576211&rightWidth=0%25¢erWidth=80%25&_afrLoop=45280163490551466#%40%3F_afrLoop%3D45280163490551466%26centerWidth%3D80%2525%26dDocName%3DSBV576211%26leftWidth%3D20%2525%26rightWidth%3D0%2525%26showFooter%3Dfalse%26showHeader%3Dfalse%26_adf.ctrl-state%3Dqwnuqr612_9

ここまで口座保有率が上昇した背景には色々あるのですが、最も大きかったと言われる要因の一つが、2020年に発効となった、e-Walletアカウントと銀行口座の紐づけ義務化というレギュレーション改訂です。

マネロン対策を重視するベトナム中銀としては、出どころの分からない資金がe-Walletを隠れ蓑として流通することを嫌い、現金トップアップではなく銀行口座からのWalletチャージを義務付けたかったのでしょう。

一方ベトナムパンピーとすれば、e-Walletのキャンペーンを享受出来なくなっては一大事なので、そりゃあまあ口座開きまくりです。

NEW REGULATIONS ON E-WALLET SERVICE
E-wallet is considered as an important tool for the development of e-commerce and financial technology industries, espec...

実はこの銀行口座保有率の上昇が、この後ご紹介するキャッシュレス決済手段ごとのシェアと、トラディショナルトレードへの急激な普及に大きく関わって来ます。

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ベトナムのキャッシュレス決済手段と普及状況

さて、ここでベトナムにおいて利用可能な主なキャッシュレス決済の種類をご紹介しておきます。

実は、決済手段ごとに利用できる人とそうでない人が存在するため、キャッシュレス決済が普及しているといっても、国外からの旅行者にとってみるとそうでもない、とか、外国人在住者の中でも一部の人は利用できない、というような実情があります。

以下、「国内」は「ベトナム国内」を指します。MT=モダントレード/TT=トラディショナルトレード。

決済手段 利用できる人 国内利用者普及状況 利用可能場所(国内)
海外発行クレカ・デビット カード保有者

〇海外旅行者

MT中心

国内発行クレカ カード保有者

×海外旅行者

×

成人の7~8%

MT中心

国内発行デビットカード

(国際ブランド有・無)

銀行口座保有者

×海外旅行者

成人の約8割

MT中心

e-Wallet

(MoMo等QR)

銀行口座&アプリ保有者

×海外旅行者

不明(70~80%未満)

MTと一部TT

銀行アプリ

(VietQR)

銀行アプリ保有者

×海外旅行者

成人の約8割

MTと多くのTT

モバイル決済※

(Viettel Payなど

Viettel等携帯利用者

×海外旅行者

×

少数

×

少数

※モバイル決済:所謂携帯料金請求スキームによる回収代行。銀行口座を持てない人向けの金融包摂政策の一環

銀行アプリ(VietQR)のところを緑文字でハイライトした理由は後ほど触れます。

では各決済手段の普及状況を、利用者側と利用可能加盟店側の両方の視点から詳しく見ていきます。ここでは日本と少し違った風景が見えて来ます。

カードはローカル屋台・商店では使えない

まずカードについてですが、クレジットカードはベトナム国内ではまだまだ普及しているとは言えません。数年後に10%に達するかどうか、という感じです。

一方で一般的なのはデビットカード。信用取引ではなく即時引き落としなので発行の敷居が低く、銀行口座保有者であれば基本的に持っています(最近はカードを発行しないデジタルバンクも増えつつある)。

で、海外からの旅行者が使えるのは当然、こうした(海外発行の)クレカもしくはデビットカードのみと言う事になりますが、カードは依然としてカード決済端末が設置されたモダントレードが中心で、屋台やローカルの商店・食堂などではほぼ使えません(まあ日本と同じですね)。

なお、逆に言えば綺麗めのホテルやレストラン、コンビニなどではここ数年でかなり使えるようになったので、ローカルな店に行かなければ死ぬほど困るということはないでしょう。ただし使えるのはVISA、Masterで、それ以外のAMEXなどはホテルでさえ使えないところがまだ多いので要注意です。

カード決済端末, キャッシュレス決済, ベトナム

Apple iPhone 15 Pro (6.86mm, f/1.8, 1/100 sec, ISO125)
こうしたカード決済端末は屋台やローカル食堂には設置されていない

e-Wallet(MoMoなどのQR)は以前ほど勢いは無い

次に、QRコード決済のうち、MoMoやZaloPayなどのe-Wallet勢ですが、こちらもローカルな商店や食堂などではまだ限定的です。後述の通り、決済手数料や売上管理への需要なども背景にあるでしょう。

成長率の点では、数年前まではキャンペーン合戦の応酬が絶えず、非常に盛り上がりましたが、昨年あたりから勢いが少し落ち着いています。

理由は複合的ですが、一つには日本と同様、マーケティング費用を燃やし続けて加入者シェアを取り合うフェーズが一段落し、利益確保の方向に向き始めているのではないか、と言われています。

そしてもう一つは、次で触れる通りベトナム中銀主導の「VietQR」と各銀行アプリの普及が凄まじく、こうした民間の各e-Walletもその流れに乗っからざるを得ない、という事情がありそうです(また後で触れます)。

レジ脇に乱立する各e-Walletのスタンディ 画像出典:CafeBiz

圧倒的に普及しつつある「VietQR」と銀行アプリ

ここ1年くらいでベトナムで圧倒的に普及しつつあるのが、「VietQR」とそれを扱う各銀行アプリです。

VietQRは、ベトナム中銀傘下のNAPASという組織が主導で規定した、ベトナムの民間銀行間の送金などに使用されるQRコードの統一規格です。ほぼ全ての銀行のアプリでこの共通QRコードを読み取ることが出来る上に、基本的に送金手数料は無料です(日常に個人がやり取りする範囲の小額送金であれば)。

最近日本でもメガバンクを中心に「ことら」というサービスが使われつつありますが、ベトナムではそれよりずっと早く、政府主導でインフラを作り始めていた形です。

例えばこちらが筆者のスマホに入っている銀行アプリ。基本的にベトナムの銀行口座保有者ならこうしたアプリがスマホに入っています。

銀行アプリ, Vietcombank

こちらは筆者個人口座のQRコード。「VIETQR」のロゴがあります。こちら宛にジャンジャン投げ銭を送金頂いてもよいのですが、一応ボカしておきましょう。

VietQR, ベトナムのキャッシュレス

という感じで非常に簡単なので、多くのベトナム在住者はこの銀行アプリを使って飲み会の精算などを行っています(ただし、口座保有者の家族など、このアプリを使えない在住者を除く)。

で、その手軽さが奏功して、ここ最近ではこのVietQRがベトナムのキャッシュレス決済の普及の大きな立役者になっているのです。特に、ローカルの個人商店や食堂、屋台などのトラディショナルトレードの多くで、このVietQRでの支払が可能になっています。

下の写真のような「え?こんなところでもQR決済?」と言いたくなる様な道端のコーヒー屋や移動式の屋台、食堂などにも、最近は大抵VietQRが設置されています。上のようにアプリで自分の口座のQRを生成して印刷するだけですからね。

VietQR, 屋台, 個人商店, ベトナムApple iPhone 15 Pro (6.86mm, f/1.8, 1/120 sec, ISO100)

実はこの方法は厳密には「キャッシュレス決済」ではありません。VietQR規格は現状、決済には対応しておらず、出来るのは送金のみです。つまり、このQRを読み取って支払いを行うと、この屋台のおばちゃんの口座へ個人送金しているイメージ。(上の方で「「キャッシュレス決済」の種類や細かい定義を無視」と書いたのはこの辺の事情)

でも、ベトナム屋台や個人商店などはまだまだ売上管理などはしていないため(敢えてしていないという話も(以下闇))、これで全然事足りるわけです。

しかも現状手数料無料と言うのも大きい(ただの送金なので)。

つまり上の表で緑文字でハイライトした通り、利用者側にしても店舗側にしても、口座保有者の殆どが即使えるので非常に間口が広く、普及速度が半端ないのです。(上で「銀行口座保有率の上昇が、この後ご紹介するキャッシュレス決済手段ごとのシェアと、トラディショナルトレードへの急激な普及に大きく関わ」っていると書いた伏線はここで回収されます。)

更にトラディショナルトレードのみならずモダントレードでもVietQRが活躍しています。例えばこちらはVinasunタクシーという大手タクシーのドライバー用アプリ。VietQRであれば、自社のスマホアプリに組み込むハードルはそれほど高くありません。

VietQR, タクシー, ベトナムApple iPhone 12 Pro (6mm, f/2, 1/90 sec, ISO200)

流石にこうした法人は道端の屋台などと異なり売上管理が必要なので(ちゃんと税金をゴホッゴホッ)、裏で決済代行事業者などのソリューションを組み合わせて導入している格好です。

なお、スマホをクレジットカードのタッチ決済端末として使用する事も技術的には可能ではありますが、PCI CPOCなどへの準拠など、世界的に見てもまだ少しハードルが高く、特にクレカ普及率の低いベトナムではもう少し後になるでしょう。

こうしたVietQRの普及を受け、MoMoなどの民間のe-Wallet勢も方針をやや変更し、数か月前からVietQRに対応し、銀行口座への送金が行えるようになりました。あくまでも個人的な見解ですが、Super Appとして、決済手数料以外の多様な収入源を模索している様にも見受けられます。

この辺の流れは実はインドが一歩先を行っていて、国主導のUPIの登場でかつてのe-Walletの雄Paytmが勢いを削がれ、業界地図が一変した・・・のに似ていますね。

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独自の道を歩むベトナムのキャッシュレス化

クレジットカードの普及が1割にも満たない中、既に財布を持たなくてもほぼ困らず、銀行口座を持つ在住者ならローカル屋台でもスマホで済んでしまう状況になっているベトナム。

昨年7月、ユニクロのベトナム1号店であるドンコイ通り店をパイロット店舗として、日本と同様の無人レジが導入されました。近いうちに導入されるとは思っていましたが、正直な所、想像よりもずっと早い展開でした。

従来の感覚ではハードルと考えられていたものをハードルとせず、テクノロジーの力と新しもの好きマインドで一足飛びに社会が変わっていく、そんな光景を目のあたりにできるのがベトナムの面白さです。以前、配車アプリとタクシーの進化により鉄道網の無い新しいモビリティの可能性を感じた事も記事にしました。

ベトナムのタクシー、配車サービス(Grab)事情 | 安全性・利用のメリット・トラブル回避方法など
こんにちは。ベトナムでGrab&タクシー通勤生活になって色々な車に乗るのが楽しみな10max(@10max)です。未だにGrabやUberなどの配車(ライドシェア)アプリ/サービスが解禁されていない日本からは、「アジアは便利な配車サービスが...

これからもいろいろ楽しませてくれそうです。

無人レジ, ユニクロベトナム

Apple iPhone 12 Pro (4.2mm, f/1.6, 1/290 sec, ISO32)
2023年7月、ユニクロドンコイ店で無人レジが先行導入された直後に撮影したもの

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