ベトナム航空機内誌「HERITAGE」は実にけしからん書籍だ。
この国にはこれほどまでに美しい風景と文化と歴史があるのだ、という事を、素晴らしいロケーション選定と美しい写真で、「誇らしげに」と言ってもよい程に訴えかけてくる。
ベトナムの旅を担うフラッグシップキャリアとして、このようなあざとい書籍が許されるのだろうか。実にけしからん。
結果、筆者の愛読書である。いいぞもっとやって下さい。
初めてハザン省の名を目にしたのも、HERITAGEの誌上であったように思う。
心奪われるまでに5秒と掛からなかっただろう。
SONY ILCE-7C (55mm, f/4, 1/125 sec, ISO4000)
ベトナム最北端の秘境、ハザン省の魅力
2024年4月18日木曜日は、休日の少ないベトナムにおける貴重な祝日だ。「フン王の命日」という。
当然ながら筆者の中では狭間の金曜日は消滅し、自動的に4連休となる。「フン王」とはどんな王なのか詳しくは存じ上げないが、大変ありがたい王であるに違いない。
いずれにしても、この3月に家族帯同赴任から単身赴任に移行した筆者にとって、実に久方ぶりの一人旅を企てる好機である。
この「4日間」で訪れるべきウルルン滞在地はどこか、それが問題だ。
一人旅ということは当然ながら、非常にハードボイルドな旅であるべきで、これまでの様に家族をアテンドするようなほのぼのとしたものではなく、壮絶なロマンと心沸き立つアバンギャルドが無ければならない(知らんけど)。
かと言って日本にいる家族の手前、あまり遠くへ飛んだり、金をかけたりするわけにも行かず、一見地味な旅でなければならない(ハードボイルドとロマンとアバンギャルドどこ行った)。
そこにドタドタっと土足で踏み込んできたのが、けしからん愛読書HERITAGEであり、ベトナム最北端の秘境ハザンであった。
「えっ?ベトナム国内に、こんなやべぇロマンなアバンギャルドがあるの?(家族には国内旅行って言えるし最高)」
「最北端の秘境」というだけでロマンとアバンギャルドは溢れ出る泉のようであるが、あえてクールかつハードボイルドにハザンの魅力をまとめるならば、以下の2点だと思っている。
魅力1:ベトナム離れした天険の絶景
いや、妙な表現だというのは分かっているつもりだ。
ベトナムが誇る絶景であるのに、「ベトナム離れした」とは、かの伝説のフン王もあの世で遺憾に思っているに違いない。
正しく言い直すならば、「日本人含む多くの外国人の脳内ベトナムイメージから離れている」という塩梅か。
その意味で言えば、もうぶっ飛びすぎていて、写真を見てどこの国の風景か言い当てることは至難であろう。
SONY ILCE-7C (55mm, f/8, 1/160 sec, ISO100)
ハザン省(Tỉnh Hà Giang / 省河楊)はベトナムの最北地点を擁する秘境である。
中国と国境を接した石灰岩地帯で、故に広範囲に渡り非常に独特で美しい地形に恵まれた、チートのような土地だ。
どのくらいチートかと言えば、
「本当にここはベトナムか?」
と脳内がハードボイルドされてしまいそうな異形の絶景である。
「異形の」とは通常「怪奇な」という意味で使われることが多いが、この偉大な自然の造形がもたらした天険の絶景はあまりに想像を絶しており、その言葉すら相応しいように思うのだ。
SONY ILCE-7C (20mm, f/8, 1/250 sec, ISO100)
ハザン省にはいくつかの有名なビュースポットがあるが、そうした場所へ行かなくても、バイクで道を流しているだけでこの様な絶景が常に眼前に現れるのがハザン省の懐の深さである。
なので ズボラ過ぎて 撮った写真が膨大過ぎて整理が全く追いつかない。
このような嬉しい悲鳴に、気づけば気色悪いニヤケ顔を浮かべてしまいかねない絶景の秘境である。
魅力2:自然体の少数民族
またハザンは、少数民族が省人口の9割を占めるという、ベトナム国内でも屈指の民族バラエティの雄である(新手のテレビ番組ではない)。
これまでにもタイ北方やラオス辺りの少数民族の村に訪れたことはあった。
いずれも20年ほど前の話だが、しかし、どうにも心躍らなかったのだ。観光臭が漂うか、もしくは伝統文化が薄れてしまっているかの、いずれかであったように思う。
それがハザン省の少数民族の人達に出会って、触れ合ってみて、果たしてこれはどうしたことか。
今までに覚えたことのない異様な感動と興奮を覚えたのだ。
そこには、極めて自然体で生活を営む彼ら彼女らの姿があった。
筆者のような異国の旅行者にもさしたる関心も向けず、ミサンガを売ろうと取り囲んで来ることもない(少なくとも筆者の経験上)。せいぜい珍しそうにはにかんだ笑顔を向けてくるくらいだ。
彼ら彼女らは、ベトナム経済の片鱗を薄っすらと受け入れつつも、彼ら彼女らのエコシステムの中で生活を完結させているかのようだった。観光客にものを売ることを主として生計を立てるという発想は、一部の文化保存のための施設以外では、少なくとも筆者はあまり感じなかったのだ。
もしかすると、観光地としての歴史が浅いという事が背景にあるのかも知れないが、それだけでは無いように思う。そもそもハザンは知る人ぞ知る秘境には違いないが、しかし全く無名な旅行地という訳ではない。欧米人バックパッカーを中心に、既に熱い注目を浴びつつある。
その辺りは追々考察していきたいが、いずれにしても、ハザン、実に稀有な秘境である。
Apple iPhone 15 Pro (6.7649998663709mm, f/1.8, 1/9000 sec, ISO80)
大切に残したい、宝石のような秘境ハザン
IT技術の発達により、ハードボイルドでアバンギャルドな(言いたいだけ)秘境は、今日どんどん失われつつある。
その様な中、ハザン省は実に貴重な宝石のような場所であると、声を大にして・・・言いたいところだが、宝石を求めてゴールドラッシュの如く人が殺到しては困るので、夜中に壺の中に向かって小声でつぶやくに留めたい。
以後、ハザン旅の模様やTipsなどについて、聞こえるか聞こえないかのようなハスキーボイスでささやいて行くので、ご興味のある方はこっそりお付き合い頂けると幸いです。
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