ムーカンチャイ旅の間、モン族の方がバイクドライバー兼ガイドをしてくれました。そして大変貴重なことに、モン族の文化や暮らしについていろいろ聞くことが出来ました。
本記事では特に、モン族のドライバーさん目線での、ベトナムの主要民族であるキン族との関係や、キン族との違いなどについて、メモ代わりに綴っておきます。
もちろん、ドライバー兼ガイドさん個人の主観も多分に含まれるかも知れませんが、それを踏まえた上でも非常に興味深いものがありました。
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モン族とベトナム人との会話は何語?学校は?
モン族の人達も、多くはベトナム語が話せます。
モン族ドライバーのミーさんはFacebookをやっていて、投稿は基本的にベトナム語で、ベトナム人観光客に向けた発信を行っています。
また、以前ハザンを旅した時のドライバー氏がベトナム人で、彼はモン族の人達とベトナム語で話していました。

と言うことで、ベトナム語での「読み書き会話」は問題なく出来ます。
モン族の人達は、小中学校はベトナム人(キン族)の人達と同じ学校に通って、ベトナム語でベトナムの文化をベースとして学ぶそうです。ドライバーのミーさんの場合はさらにハノイの大学にまで通い、観光産業と英語を学んでガイドの仕事に活かしています。
実はベトナムでは、少数民族を含む全ての国民に公教育の機会を与え、発展格差を縮小するための取り組みを、政府主導で行なっています。もちろん山岳最奥部の非常に人口の少ない民族の一部では、教育の意義が理解されないなどの理由で100%には達していないようですが、国としてそうした取り組みを行っていると言うのはシンプルに良い事だなと感じます。
モン族から見た、ベトナム人との違いについて
そのように公立学校でキン族の人々と一緒に学んだからこそ感じる、モン族とキン族との違いというのがあるようです。
以前旅行記にて、棚田の絶景スポットでレンタル民族衣装で身を飾って熱心にセルフィーを撮影するベトナム人観光客を見ながらミーさんと交わしたこんな会話をご紹介しました。
筆者「ベトナム人はセルフィーが好きだな」
ミーさん「本当にベトナム人はセルフ写真が大好き。モン族はあまりそういうことはしないわね」
筆者「日本人もここまで熱心じゃないな」
ミーさん「モン族とベトナム人は本当に多くのことが違うのよ」

この後、こんな会話が続きました。
筆者「例えばどんなところが違うの?」
ミーさん「全てが違う。ものの考え方や価値観全てが違いすぎると言うことを、学校でベトナム人の文化を学ぶ中で知ったわ」
筆者「へぇ、そんなに違うんだ」
ミーさん「自撮りをあまりしないということもそうだし、例えば、農業や作物に対する考え方も違う。ベトナム人は作った作物を売ってお金を稼ぐけれど、モン族の農業は自給自足のため。家族や親族のためにしか作らない。だからベトナム人は商売に長けているけれど、モン族はあまり商売を重視しないの」
そういえばこの話で思い出したことがあります。
司馬遼太郎先生の名著「人間の集団について 改版: ベトナムから考える」の中で次のような一節がありました。
カンボジア人とラオス人は、伝統的にインド文明を受容してきた。千年以上、中国文明を受容してきたベトナム人とは、物事に対処するときの精神や肉体の身動きが違うのである。(中略)高地民族は自給自足の生活だから、その故郷の山を離れると、生活ができない。(中略)さらにかれらは集団の伝統として商業の経験を持たない。(中略)「ベトナム人はクレヴァーだ」というベトナム人の優越感は、この大いなる半島での他民族との優劣の比較においてできあがっているらしく、それを端的にいえば、商売ができるかどうか、簡単な商業算術ができるかどうか、商売における機略性があるかどうか、にかかっている。
モン族との比較においてのみならず、インドシナ半島において、ベトナム人(キン族)というのは特に商売感覚に秀でた民族と言う暗黙の了解が、存在するのかも知れません。
なお司馬先生のこの本、下の記事でも激しく推していますが、鋭い観察と示唆に富みまくっていて本当におすすめです。

モン族とベトナム人との結婚について
上のような会話に続いて、こんな質問もしてみました。
筆者「じゃあ、モン族とベトナム人が結婚することってあるの?」
ミーさん「とても少ないわね。全くないわけでは無いけれど、ほとんど聞いたことが無いわ。価値観も文化も違いすぎて、難しいと思う」
さもありなん、という感じです。
経済活動など最低限の交流を通じ、共通する部分も持ちつつ、一方でこれまでの間ここまで独自の文化を保って来ているという事実が、民族的な混合がさほど行われてこなかった事を物語っています。
SONY ILCE-7C (78mm, f/5, 1/100 sec, ISO100)
平地で経済活動を行うキン族が多数を占める国ベトナムにおいて、山岳で自給自足中心の生活を営むモン族などの少数民族。
しかし、山岳少数民族の間にもスマホやSNSが急速に普及する中で、この先も伝統は守られ続けるのでしょうか。旅行者のエゴとしては出来るだけ失われてほしくないと願うものの、そればかりは外野がとやかく言う問題ではありませんね。
ただ、日々ホーチミンで生活している筆者がムーカンチャイ旅のあいだに終始感じていたのは、モン族の人々に対するそこはかとない親近感でした。顔立ちもそうですが、控えめでおっとりした雰囲気が、何となく日本人的には落ち着くんですよね。元々モン族と日本人はルーツを同じくする遠い親戚だという説もあります。なので、出来れば今のまま居てほしいな、とは思ってしまいます。
今から10年ほど経った頃、ムーカンチャイやハザンの少数民族がどういう暮らしをしているのか、その変化を確かめにいくのを今から楽しみにするとしましょう。
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