20歳の小さなバイクタクシー青年キムは、小さなホンダに乗って、約束通り朝5時のゲストハウス前にやってきた。
満天の星空、濃緑の木立のトンネルを抜けると、そこには今日一番のクライマックスが静かに僕を待っていた。
夜明け前のアンコール・ワットが佇んでいる。
しばらくするとそこは観光客で溢れ出す。団体の日本人観光客も多い。
旅人はみな、素晴らしい光景についてどこからか聞き知って、その感動を目の当たりにしたいと思うのが当たり前なのだが、バックパッカーたる僕はどうも団体観光客を見ると興ざめしてしまう。
かくいう僕だって同じ旅行者のくせに、そして年月が過ぎ家族が増えれば、団体観光客の一員となるかも知れないのに、実に身勝手なものである。
やがてアンコールの地に日が昇る。
夜が明けて間もない低空飛行の日差しがアンコール寺院の回廊を照らし始める。
回廊に設けられた連子状窓(飾り文様の彫られた円柱の格子窓)は、窓の造形そのものが美しいだけでなく、その陰影までもが抑揚のある柔らかい空間を作り出すのに一役買っている。
シルエットまで美しい連子状窓。
表面が丸ごと剥がされた石仏。金品目当てに略奪されたのであろう。
頭部を奪われた石仏も少なくない。むしろ完全に残されているものの方が珍しいと言わざるを得ない。
ヒンドゥー教の天地創世神話として有名な「乳海攪拌」の壁画。
50mにも渡って壮大に彫られている。クメール様式の壁画の中で最も有名なものの一つであるようだ。
こちらもヒンドゥー教の神話として有名な、「マハーバーラタ」の中の戦闘シーン。
「アンコール・ワットの浮き彫りの中でも最も優れたものの一つ」とものの本に書かれているが、私にはその区別はつかない。
かつてこの地はヒンドゥー教の土地であった。そこへ仏教が渡って来て、このような独特なクメール式の仏教が生まれたという。
そもそもなぜこの地にヒンドゥー教が普及していたのか、そんなことに想像を巡らせるだけでもわくわくするじゃないか。
外へ出てみると、この寺院が深い森に囲まれていることが分かる。これが今朝、小さなホンダの後部座席から見上げた濃緑のトンネルの正体だ。
アンコール・ワット中央のピラミッドの頂上。ここは「祠堂」とよばれる、神々が祀られる神聖な場所。
回廊の外壁に連子状窓とデバター(女神)が並ぶ。
どれ一つ同じ顔のものは存在しないと言われる、妖艶なデバター。
暑い一日がまた始まる。
本日のお宿
インドからの胃痛腹痛持ち越しのため記録なし・・・
本日の出費
インドからの胃痛腹痛持ち越しのため記録なし・・・
[2000年12月5日]
※本連載は西暦2000年のインド〜カンボジアバックパック旅の手記を本ブログ向けに起こしたものです。記載内容は当時の手記そのものであるため情報は当時のものであると共に、筆者が学生だった頃の稚拙な文章であることを差し引いてご笑覧頂ければ幸いです。
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